「オーデュボンの祈り」
私には初・伊坂幸太郎です。
外界から自ら門戸を閉ざした島。未来を見るという予言者の死を発端に起こる不可解な殺人事件と失踪。住民も曲者ばかり。道具立てを思いつくまま書いてみると、さながら横溝正史のような素材だ。
ところがそうはならないのが、この作品。「これが新潮ミステリー倶楽部賞?」と驚くほどの変化球でした。例えるなら、まるでファンタジイノベル大賞を読んでるような口当たり。
よくこの作家が引き合いに出される村上春樹を、私は読んだことがないので、私が思いつく雰囲気の近い作家を挙げるなら、北野勇作。淡々としているが味のある文体で、読みやすいが、必ずしも世界観が理解しやすい訳ではない。何度も読んで(あるいは、あとから再読してみて)腑に落ちる感覚だ。
構成も、パズルのピースが埋まるようにすとんすとんと終結するが、それはミステリというよりも、文学に近い。人物配置や筋立てが嵌っていくのだ。
舞台背景があまりにも不自然なので、その部分はちょっと頂けないが、このあとの「ラッシュライフ」「重力ピエロ」あたりで、どう化けているか楽しみだ。
それにしても、この作品をミステリの賞として送り出した新潮社は、なかなか勇気がある。