「ネバーウェア」

dreamingjewels2006-08-28

「ネバーウェア」
作者:ニール・ゲイマン
訳者:柳下毅一郎
出版社:インターブックス
発行:2001年7月

アメコミでは最早ビッグネームの、ニール・ゲイマンの長編。装丁が強面なので、これまで敬遠してましたが、読んでみるとそんなにハードルは高くない。すいすいと読み終わりました。

主人公はロンドンのビジネスマン。彼が怪我をした少女を助けたことで、もうひとつの地下にあるロンドンの物語が幕を開ける、というのが導入。開巻は典型的な巻き込まれ型。婚約者との会食が上手く運ばないところや、出勤したら自分の机がなくなっていて、誰も主人公を覚えていない、なんてところがユーモアたっぷりの語り口で良い感じ。このあたり、私はヒチコックの「北北西に進路をとれ」を想起しました。

地下あるもうひとつのロンドン、という夢想が地下鉄の駅名とあいまって、魅力的な作品世界を作っている。なにしろ、主人公が酔った頭で考える「オックスフォード・サーカスでは本当にサーカスをやっているんだろうか」という思い付きを地でいくのだから。(日本でおんなじことを考える人っていないのかなあ)ロンドン好きなら、普通の人よりもずっと楽しめるかも。

とはいえお話自体は、地下世界で苦難を乗り越えて主人公が成長するという典型的なもの。気分よくユーモアに富んだ語りに身を委ね、舞台を楽しむ小説なのかもしれません。

創元文庫あたりで気軽に読めるようにして欲しい、肩の凝らないファンタジイでした。