「少年時代」

dreamingjewels2006-09-17

「少年時代」☆☆☆☆★
作者:ロバート・マキャモン
訳者:二宮馨
出版社:ソニー・マガジンズ(ヴィレッジブックス)
発行:2005年7月

 恥を忍んで告白すると、ホラー界の三大巨頭といわれる、キング・クーンツ・マキャモンは今まで一作も読んだことがありませんでした(クライヴ・バーカーは大好き)。だから、マキャモンのこの作品が「ホラーを書かない」と宣言した第一作であることも、その後、2作を書いて断筆していることも全く知りません。
 そんな私ですが、この「少年時代」は、抜群の秀作だと思います。便宜上、ホラー・ファンタジイとジャンル分けしましたが、実際はミステリを柱に、そして少年の成長物語を基調にして、ファンタジイ、SF、西部劇、ホラーを織り込んだ贅沢な作品です。それも、扱われたジャンルには多大なる敬意が込められています。その敬意をもって執られた筆は、かつて読者が(そして作者自身が)接しただろう小説や映画の高揚感を、まるで初めて読んだ/観たように描写することで、作品に並々ならぬ瑞々しさを与えています。
 ジャンルの特徴として、どうしても「何かが道をやってくる」「たんぽぽのお酒」をものした先人レイ・ブラッドベリの枠にはまりがちになるものですが、「少年時代」は、自伝的要素を含め、なおかつ、最終章となる「いまのゼファー」を結びとしたことで、大人の視点を持つのが決して上手くはないブラッドベリを越えたと思います。
 繰り返しになりますが、私はマキャモンを読むのは初めてでした。けれど、この作家の「少年時代」に注ぎ込んだ作家的膂力と誠意は、他の作品にも接したい、と思わせるには充分すぎるものでした。想像ですが、マキャモンはこの作品を長年あたためていたのではないか、けれど、そこまでの技量がなかったから、それまでは手を出さなかったのではないか…。そんな、「生涯最上の一作」を、この「少年時代」に強く感じました。
 読めて幸せ、そこまで言っても嘘にならない、実にいい作品でした。
 ブラム・ストーカー賞世界幻想文学大賞受賞。

 ちなみに、これから作品に評価の星をつけることにしました。
 評価基準は双葉十三郎さんの映画評「ぼくの採点表」(トパーズ・プレス)にならっています。引用すると、こんな配点。

☆☆★★以下 篤志家だけどうぞ
☆☆★★★  水準以下だが多少の興味あり
☆☆☆    まア水準程度
☆☆☆★   見ておいていい作品
☆☆☆★★  同上
☆☆☆★★★ 上出来の部類
☆☆☆☆以上 ダンゼン優秀

 あくまで私個人の評価であって、万人向けかどうか、ということは全く考慮しません。似たような話を続けて読むと評価が下がるでしょうし、好みなら評価は上がります。