「グラン・ヴァカンス」&「ラギッド・ガール」

「グラン・ヴァカンス」☆☆☆★★★&「ラギッド・ガール」☆☆☆☆★
作者:飛浩隆
出版社:早川書房
発行:2002年9月(「グラン・ヴァカンス」)、2006年10月(「ラギッド・ガール」)

全部書き終えたら長編3作といくつかの中短編で構成されるらしい「廃園の天使」シリーズです。今回読んだのは、そのうちの第一長編と中短編集の2冊。(「グラン・ヴァカンス」は文庫版がハヤカワ文庫で発売されました)

来客が途絶えて1000年以上が経過したネット内の仮想リゾート〈夏の区界〉。その地を突如襲い始めた蜘蛛たちとの戦いを描くのが、第一長編「グラン・ヴァカンス」。実は私、この本に2度ほどトライして挫折しております。とにかく4章までは私にとっては地味な話に見えて、読み続けられなかった。ところが今回読んで分かりました、面白いのは5章からだったんですねー。絢爛豪華で苦痛と美しさに溢れた物語でした。

さて、「蜘蛛の正体は何か」「なぜ来客は途絶えたのか」など、幾多の謎を抱えたまま終わる「グラン・ヴァカンス」を引き継ぎ、そのSF的な基盤を明かす中短編集が「ラギッド・ガール」。レベル高すぎ。中短編集は読むのに結構時間がかかる私ですが、あんまり面白いのでぶっとおしで読み終えてしまいました。特に「ラギッド・ガール」「クローゼット」「魔述師」の三作はグレッグ・イーガン小笠原豊樹が翻訳したかのよう。語られる言葉が実に美しい。SF的な着想にも衝撃がある。そして内容が危ない。良い意味で「毒」に満ちています。個人的には、グレッグ・イーガンジェイムズ・ティプトリー・ジュニアに迫っていると思います(褒めすぎか?いや、褒めすぎじゃない!)。

「グラン・ヴァカンス」がSF的な設定を語らない制約の元に描かれた作品なので、フラストレーションが溜まる人もいるかもしれません。そういう人は「ラギッド・ガール」まで一気に読むことをお勧めします。きっと予想を超える世界がたち現われて驚くはず(だからこそ、SF的設定を語らない「グラン・ヴァカンス」が凄いということにもなる)。

それにしても、ここまで面白い作品が一気に読めるなんて。それも日本人作家の手で描かれたとなれば感慨ひとしお。幸せでした。
こうなると続きが待ち遠しいが、次(長編「空の園丁」)が出るのは何年後だろう。いや私は10年だって待ちますよ。