「ブラックサンデー」&「白い果実」

「ブラックサンデー」☆☆☆☆
作者:トマス・ハリス
訳者:宇野利泰
出版社:新潮社(新潮文庫
発行:1979年3月

 久しぶりに文章を書くけれど、読むほうは休みなし。あいも変わらず続けています。

 まずはいつかは読みたいと思いながらも放置していた「ブラックサンデー」から。
 
 トマス・ハリスといえば「羊たちの沈黙」作者として有名ですが、そんな彼の1975年発表になるデビュー小説。スーパーボウルパレスチナゲリラが襲う、その襲撃側と守る側を描くお話です。こんなに簡略化できるほど筋立てが単純な分、情報量は圧倒的。ゲリラ側の心理も、迎え撃つモサッドやFBIの動きも詳細でリアル。そして人物の掘り下げも周到で、登場後ほどなく絶命するような人物のひととなりなどが読後も思い出されるほど。小説としても完成度も「デビュー作なんて冗談だろう」と思うくらい高い。峻烈極まりない結末まで、文庫一冊でここまで楽しめれば何の文句もありません。
 
 名作の誉れ高いものの、諸般の事情から日本で公開中止になったという、曰くつきの映画版(ジョン・フランケンハイマー監督)も、ぜひ観たいところ。

「白い果実」☆☆☆★
作者:ジェフリー・フォード
訳者:山尾悠子金原瑞人・谷垣暁美
出版社:国書刊行会
発行:2004年8月

 続いて、最近とみに評価を上げているジェフリー・フォードの出世作。ですが、私にとっては、思いつきのような話の展開、ありがちなガジェットを描写でカバーしようとしている作品にしか見えませんでした。ひとの夢を聞かされているみたい。三部作ということで、出揃えば正当に評価できるのかもしれませんが、単体ではあまり感心しませんでした。
 
 世界幻想文学大賞受賞。