「捕虜収容所の死」

「捕虜収容所の死」☆☆☆★
作者:マイケル・ギルバート
訳:石田善彦
出版社:東京創元社創元推理文庫
発行:2003年5月

収容所モノが好きです。といっても映画の話で、「大脱走」や「第17捕虜収容所」、「穴」などの、閉塞空間で知恵をしぼって脱走をはかるシチュエーションが観ていて楽しいんですね。

ということで収容所ミステリという期待のもとに紐解いた「捕虜収容所の死」でしたが、正直わたしにはあまりヒットしませんでした。

それもこれも、本作が1952年刊行の「埋もれた名作」ということが要因でしょう。

まず、今の目から見るとあまりにも描写が素朴すぎて、ト書きのよう。おそらく同じ素材で作品を書くとしても、現代の作家なら大幅に書き込みを増やすはず。

それにミステリで牽引しながらも、ラストの大脱走に行き着く構成も、個人的には好きですが、現代ではミステリ+スリラーが定番化しているから意外性も少ない。

そして、スパイの正体をひっぱる手練も、ひっぱり上手のコニー・ウィリスなんぞ読んでる身としては「もっと工夫せいよ!」といってしまいたくなるほど捻りがない。

時の流れは残酷だなあ、というのが本音で、素材のわりに(今の読者にはおそらく)あっさりすぎる、現代ではあまりに素朴な作品でした。でも、50年前に翻訳刊行されていたらもしかしたら「古典的名作」と冠せられたかもしれません。

宝島社「2004年このミステリがすごい」海外編第2位(ちょっと意外)。