「夜のピクニック」

夜のピクニック」☆☆☆★★★
作者:恩田陸
出版社:新潮社(新潮文庫
発行:2006年9月

 わたしにとっての恩田陸は何より「六番目の小夜子」だった。第三回のファンタジーノベル大賞最終候補として残ったこの作品は、当初新潮文庫のファンタジーノベル・シリーズの一冊として刊行された。わたしがこの本を手にしたのは高校3年の時。秋の章がとにかく圧巻で、ここから数年間、恩田陸は出れば必ず買う作家だった。

 その後、恩田陸とは疎遠になっていく。短編集「光の帝国」が最後に読んだ本だった。「光の帝国」も素晴らしい出来で、おそらく初期代表作といっていい。だが、わたしはこの作品で恩田陸から離れた。それは、この一冊で恩田陸が分かった気がしたからだ。このとき思いついた、わたしにとってのこの作家の位置づけは「未だしの恩田陸」。恩田陸は、導入こそ抜群に上手いが、何故か締めが弱い。長編をいくつかあたるうちに感じていた燻りは、「光の帝国」で決定的になった。全編通して上手な予告編なのだ。予告編だから、当然、期待感は抜群なのに、一向にカタルシスを得られない。こうして、わたしは恩田陸から離れてしまった。

 長い前置きだったけど、要は、わたしにとって八年ぶりの恩田陸ってことです。昔に比べ語りは上達したし(もともと読ませる作家ではありましたが)、小さな謎の配置や引っ張り方も洗練されてます。この前読んだマキャモンより、謎の扱いだけならいいかもしれません。そして結末。また肩すかしだったらどうしよう、と思ってましたが、こんなラストも書ける作家になったのか、と感心。未来のヴィジョンはスタージョンに迫れなかったので☆☆☆☆はつけられないけど(でも「輝く断片」を想起)、恩田陸の現時点での代表作といえるでしょう。人当たりの良い作品といえるので、素直な気持ちで、この作家の良心と技に酔いしれたらいいんじゃないでしょうか。

 本屋大賞受賞。