「時をかける少女」

dreamingjewels2006-08-15

時をかける少女

監督:細田守
脚本:奥寺佐渡
キャラクターデザイン:貞本義行
美術監督:山本二三
声の出演:仲里依紗石田卓也板倉光隆原沙知絵ほか
公開:2006年・日本

時をかける少女」、期待せず観に行ったら、私の予想など遥かに超えた良作でした。末永く生き続ける力を持った、上質な逸品。
高校2年生の主人公・真琴は、ひょんなことから過去に戻れる能力「タイム・リープ」を身につける。トラブルもテストも過去に戻って万事解決!高笑い…ところがクラスメイトの男子・功介と千昭との仲にも意外な変化が出始める。
まあ、そこから先は、観てのお楽しみということで。

ここからは長い蛇足。

この映画、まず脚本が良い。ほぼ数日間の時間を主人公がいったりきたりするのだが、すこしも分かりづらくない。混乱しやすいタイムトリップものでは、これはとても重要なところ。正直、かなり練られた脚本だと思う。

そして、主人公が良い。タイムトリップものは、取り返しのつかないことに後悔したり、感傷的になったりしがち。ところが今回の主人公・真琴は、ありていに言えば前しか向いていない。ああしなきゃよかったなあ、なんて考えることが少ない。実際、失敗したらためらいなく、すぐ次の場面で過去へ戻ってやり直そうとしていたりする。それが映画に勢いを与えている。でも、勢いだけで感情がないわけではない。それが証拠に真琴は号泣もする。だが、それは真夏のスコールのように清々しい涙だ。

演出も良い。タイムトリップものは、下手に作ると同じことの繰り返しで飽きてくる。ところが本作は、少しずつ描写やせりふ、状況をずらすことで「何度も観ているのに新しい」場面を作ることに成功している。非常に丁寧に作りこまれていると言えるだろう。

笑いの質も良い。繰り返しから出る笑いも、真琴の一挙一動の可笑しさも、とても品がいい。私が観た劇場は非常によく笑いが起こったが、爆笑ではなく、「クスッ」という吹きだすような軽い笑い。これがいい。その上、笑いにつなげるテンポがある。計算しているということだが、観ている間はそれが気にならないから、映画の勝ちといえるだろう。

声優も良い。非常に自然。高校生の声だな、と実感できる幼さと大人っぽさがある。この人物はこの声しかない、といえるものになっている。特に真琴はハマリ役。これで随分とこの映画は得をしたと思う。

こんな具合で、いいところを挙げればきりがない。正統派なつくりを持った良い映画なので、アニメだと毛嫌いする必要はない。純粋に「映画として」評価できる作品なのだ。これは私見だが、おそらく本作も「ブレイブ・ストーリー」と同じく「打倒ジブ リ」で作られた作品なのだろう。標的は「耳をすませば」。だが、主題としては近い「耳をすませば」があえて普遍的な作品づくりを目指した結果、”いま・ここ”のリアリティを失ったのとは対照的に、「時をかける少女」は極めて現代的。ノスタルジイをかきたてやすい高校時代を描きながらも、そこには郷愁や懐かしさの含有量がとても少ない。それは、携帯電話で示される道具立てや、「コンビニに行ってくる」という些細な台詞、登場する高校生のさりげないピアスなど、決して大きくはない描写の積み重ねにこそ生きている。そこに、「あくまでも、2006年7月の高校生に観てもらうために作った作品なのだ」という製作者たちの本気が見える。今年の夏は、ジブリがその凋落ぶりをあらわにした年として記録されるのだろうが、それだけではない、新たな時代の始まりの年としても特筆されることだろう。それは、ジブリの遺産が新たな形で開花を始めた年として、だ。

欠点は、公開している映画館が”まだ”少ないこと。だが、首都圏は軒並み満員の大盛況。7月末の公開スタートながら、上映館が(首都圏だけ見れば)少しずつ増え始めている。

だから、悪いことは言わない。他の超大作を観るなら、「時をかける少女」に足を運んでほしい。

ちなみに、ひとりでなく、誰かと行ったほうがいい映画かも。友人でも恋人でもいいから。見終わった後、いろんな話をしたくなる映画なんですよね。

書いてたら、また観たくなっちゃったなあ。ほんとに、何度でも観たくなる映画です。