「シンギュラリティ・スカイ」

dreamingjewels2006-07-09

「シンギュラリティ・スカイ」
作者:チャールズ・ストロス
訳者:金子浩
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)
発行:2006年6月

本当につい最近、「アッチェレランド」がヒューゴー賞の長編賞を受賞したばかりのストロスの第一長編。私は、SFマガジンの既訳短編も未読なので、ストロスは初めて。

楽しい本でした。勿体無くて、ゆっくり読んじゃいました。

時は未来、究極の人工知性・エシャトンにより、人類の再編されたシンギュラリティ後の世界の出来事。辺境の植民惑星ロヒャルツ・ワールドに突然降り出した携帯電話の雨。電話はあることと引き換えに、人々にあらゆる願いを叶え始めた ― 情報化された人類の末裔・フェスティヴァルと人類のコンタクトを、ひねった視点で描くSF。

読んでるあいだ幸せでした。情報量の多さとガジェットの楽しさ、シンギュラリティ後のロヒャルツ・ワールドの描写が、とにかく楽しくてしょうがない。これは生粋のSFファンが作家に転身したに違いありません。特に気に入ったのは308Pからの「外交行為」の章。異形の世界が少年を通して語られるのですが、迫力と意外性は本書でも白眉と言えるでしょう。それから、詳細は書きませんが、笑いのセンスもたいしたもの。イギリスならではといえるのでしょうか、これほど情報量があるのに、笑いを随所に折込み、読みやすさを高めてます。

伏線や舞台背景など、小説の興を削ぎそうなため、「言わぬが花」の部分が多い作品ですが、SFファンなら定価以上の読書時間を過ごせること請け合い。物足らない、という感想も耳にしましたが、私は満足。私にとってストロスは「出たら買い」の銘柄と成りました。本国ではもう出ているという続編、待ってます。「アッチェレランド」も早く読みたい。

追記。これは私にはワイドスクリーンバロックと映るのですが、皆さんはいかがでしょうか?少なくともスペースオペラとは言いづらい。