「火星縦断」

dreamingjewels2006-06-05

「火星縦断」MARS CROSSING

作者:ジェフリー・A・ランディス

訳:小野田和子

出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)

発売:2006年5月

6月の課題図書1冊目(2冊目はまだ未定、相談中です)。

2000年発表の火星SF。着陸直後に帰還船の故障が発覚した第三次有人火星探査隊。クルーは新たな帰還船を求め、「火星縦断」へ旅立つ ― 全550P。

わが友人は「ハードSFは趣味じゃない」といってこの課題図書に難色を示しましたが、ハードSFというよりは、むしろ火星版のリアルなサバイバル小説でしょう。手法は古典映画「翼よ、あれが巴里の灯だ」(1956年米、ビリー・ワイルダー監督)でリンドバーグの大西洋横断を撮ったのと同じく、過去の回想を挿入していくというもの。クルーの人生と火星に至る動機は「ハードSFはちょっと…」という普通の読書好きでもついつい読まされてしまう力強さと意外さがいっぱい。さらに、全6章を137のパートに細分化。これが読みやすさを飛躍的に上げてます。もちろん、著者ランディス自身が現役のNASAの火星探査計画に携わる科学者でもあり、随所に挟まれる火星の景観は見事ですし、火星探査にある陥穽もしっかり物語に生かされ、迫真のサバイバル小説として昇華されてます。

長編はこれ1冊きりのランディスですが、作家のキャリアは22年というベテラン。小野田和子さんの翻訳が読みやすいからこそだけど、550Pを軽く読ませる力量に感心しましたよ。早川書房さん、短編集も出してくれないかなあ。

ちなみに、文庫の表紙に「ローカス賞受賞」とありますが、これは、2001年の第一長篇部門…つまり処女長編の部門でを受賞したという意味です(この年の長編賞はル=グィンの「言の葉の樹」)。