「毒薬の小壜」
「毒薬の小壜」A DRAM OF POISON
作者:シャーロット・アームストロング
訳:小笠原豊樹
出版社:早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
発売:1977年10月
課題図書を浮気してずっと読んでいたのがこの本。
自殺を思い立った男、ところが肝心の毒薬をバスに置き忘れて大騒動に。1956年発表のサスペンス・ミステリです。
前半、男が自殺に至る心理描写を克明に描いた上で、後半を毒薬探索一本に絞る構成が光ります。特に後半では登場人物が次々に増え、まるで舞台劇のようなディスカッション小説に(作者のアームストロングは演劇にも携わった方と解説にあり、納得)。皮肉ながらも明るい結末まで、ミステリだけでなく読書そのものの醍醐味を存分に味わえます。誇り高い家政婦や考えることが大好きなバスの運転手など、通り一遍に行かない人物造詣も面白く、宮部みゆき作品を読んでいるようでした。
翻訳は、ブラッドベリやスタージョンでもおなじみの名匠・小笠原豊樹氏。相変わらず読みやすい。彼の訳本に外れなし、です。ちなみに小笠原豊樹氏は、戦後の大翻訳家・大久保康雄の影の訳者の一人としても有名です。
ちなみにMWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞の最優秀長篇賞を受賞しています。