「マンダレイ」

dreamingjewels2006-06-21

マンダレイ
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
出演:出演:ブライス・ダラス・ハワードダニー・グローヴァーウィレム・デフォーローレン・バコール
公開:2005年・デンマーク

先に、かつて私が書いた前作「ドッグヴィル」の感想を…

ドッグヴィル」(ニコール・キッドマン主演、2004年デンマーク)観る。衝撃的、の謳い文句がいろいろなところで聞こえてきましたが、要は、北村薫の謂うところの「銀仮面」モノの一変形ですね。ここまで書いてピンとくる人、そうです、「どんどん権利を奪われる」パターンです。私はこれを観て安部公房の短編「友達」を思い出しました。 映画自体は、簡単な家具と白線のみで極力シンプルに描いた、非常に舞台的なもの。映像も俳優さんの演技もかなり良い出来。単純に映画としての評価を下すなら「高い」。素晴らしい作品だ。でもなあ、それを評価した上で、ふつうの人として感想を言うなら、「なにを今更」だろう。小さな利得に汲々とする人たちが、それぞれに少し悪かったなんて、そんなの分かってる。それが結論では、あまりにもさびしいではないか。私はその先が観たい。その先があると信じたい。

という訳で、「その先があると信じたい」などといいましたが、続編がこんな映画とはね。

ドッグヴィル」では、閉鎖的な社会のイヤさをこれでもかと描いたトリアーですが、今回は、もっと標的が明確。アメリカです。お話は至ってシンプル。「ドッグヴィル」を去った主人公グレース(ブライス・ダラス・ハワード)は、奴隷制度が存続しているアメリカ南部マンダレイの農園に辿り着く。グレースは、奴隷たちに人権教育を施そうとするが、被支配者の立場に慣れてしまった黒人たちにはなかなか受け容れられず、事態は悪化の一途をたどる。

脚本は非常に手堅い。前作ほど舞台的なセットが効果をあげていないけれど、伏線が確実に回収されていく様は非常に小気味よい。結末は、前作とは違い、狂気に満ちたカタルシスはないが、別の意味で衝撃的。この後味悪い幕切れは映画そのものというより、世の中で今まさに進行している異常さに通じるもので、トリアー的なあざとさとは言いにくい。むしろトリアーのアメリカ嫌い、アメリカへの怒りが率直に出たかたちだろう。私はトリアーを変態だと常々思ってきたけれど、今回は比較的まともでしたね。

それにしても、アメリカの人はこの映画をどんな顔をして観るのか。マイケル・ムーアより、よほど過激な警告と言えるだろう。

さて、このアメリカ三部作のトリとなる「ワシントン」、一体どうなるのだろう。期待は高まる。